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福岡地方裁判所 昭和41年(行ウ)7号 判決

北九州市八幡区藤田町二丁目

原告

石津正男

右訴訟代理人弁護士

三浦久

北九州市八幡区

被告

八幡税務署長

茂田英男

右被告指定代理人

川井重男

東熙

田中芳郎

大神哲成

小林淳

安武嘉三次

右当事者間の昭和四一年(行ウ)第七号行政処分取消請求事件について次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(当事者の求める裁判)

原告

「被告八幡税務署長が原告に対し昭和三九年九月三〇日付でなした原告の昭和三八年度分所得税に関する所得税額を金三八二、五一〇円とするとの更正決定は、税額三六、六〇〇円を越える部分はこれを取消す。」との判決

被告

主文同旨の判決。

(請求原因)

第一、原告は、バーの経営を業とするものであるが、昭和三九年三月一五日被告に対し、昭和三八年度分所得税の確定申告として、確定申告書により、総所得金額を三〇五、〇〇〇円、課税される所得金額一九四、二九〇円、これに対する税額を一七、四〇〇円と申告したところ、被告は昭和三九年九月三〇日付で総所得金額を一、八四二、四三一円、課税される所得金額を一、七三一、七〇〇円、所得税額を三八二、五一〇円とする旨の更正決定を行い、その頃原告に通知した。

第二、原告はこれに対し、同年一〇月二七日被告に異議の申立をしたが、被告は昭和四〇年一月二七日、これを棄却したので、更に昭和四〇年二月一六日福岡国税局長に対し審査請求をしたが、同局長は、同年一二月一六日付でこれを棄却し、同月二三日原告にこれを通知した。

第三、本件更正決定の違法性は次のとおりである。

原告の昭和三八年度中の所得金額は六八六、六一三円である。然るに被告は前記の如き更正決定を行い課税処分を行つたものである。従つて右更正決定は原告の所得を過大に認定した違法があるものであつてその詳細は以下のとおりである。

一、原告の昭和三八年度総所得金額は六八六、六一三円であり、その算出方法は次のとおりである。

(一) 仕入総額

(1) ビール、雑酒、タンサン、ジユース、ジンジャエル

〈省略〉

(2) 肴 一八〇、〇〇〇円

(3) コーラー 三〇、九六〇円

(二) 差益率

〈省略〉

(三) 総売上額

〈省略〉

(四) 原告の所得額

総売上額-仕入総額-一般経費-特別経費

(1) 粗利額(総売上-総仕入額)

3,617,838円-992,044円=2,625,794円

(2) 標準所得(粗利-一般経費)

2,625,794円-595,516円=2,030,278円

(3) 所得額(標準所得-特別経費)

230,278円-1,343,665円=686,613円

二、仮に右主張に理由がないとしても、被告の推計方法には合理性がない。

(一) ビールの仕入本数のうち下半期を推計の方法によつたのは違法である。

被告は、原告のビールの仕入本数について田中酒店からとつたのは七、五三二本であるが、上半期と下半期の比較から、他の酒店からも仕入れているに相違ないとして推計の方法をとつているが、これは単なる推測に過ぎず何らの合理性もない。

「バー」という商売は、ホステスの移動によつても大きく売上が左右されるのであり、この様な一般的推測は許されない。直方市からも仕入れているというのであれば、その酒店にあたつて証拠を収集すべきである。正確に売上額を把握する方法があるのにこれを怠り、安易な推計に頼つて、国民の財産権を侵害することは許されないものといわねばならない。

なお、昭和三八年度における原告方バーのガス料金、電灯電力料金、水道料金、電話料金の、上半期と下半期との各金額および各割合が被告主張のとおりであることは認めるが右各料金の下半期における増加は売上の増減とは関係がない。

即ちガス料金は煖房により、電灯電力料金、水道料金は冷房等により各々増加したのであつて、これら冷煖房は客の有無多少にかかわらず必要なものである。電話料金は、客や従業員が勝手に使用して増加したものであつて右料金は偶々下半期に増加したものである。

(二) 所得率を五九、八%としたことも何ら合理性がない。

被告も自認している様に、バー等の業態においては正確に収支計算ができる納税者は比較的稀であるので、一般的に所得を算出する場合、所得標準率によつているのであり、これは四五%を上廻ることはない。しかるに、本件では被告は比較的営業収支の良好なバーの所得率の平均値で算出している。これは合理性のない差別で憲法一四条にも違反しているといわなければならない。

(被告の答弁)

請求原因第一、二項の原告主張事実は争わない。被告が、原告の昭和三八年度課税所得算定の資料として認定したものは次のとおりである。

(1)  原告方バーの売上本数、下半期(七月~一二月)五、五八〇本、年間九、七七六本。

(2)  右ビール一本に伴う総収入五四五円、従つて総売上高五、三二七、九二〇円

(3)  所得率五九、八%(これにより標準経費を控除した所得金額を算出すれば、三、一八六、〇九六円となる)。

(4)  標準外経費一、三四三、六六五円。(これを差引いた総所得金額一、八四二、四三一円。)

然して被告の右認定は、原告方バーの上半期(一月~六月)のビールの仕入本数を基礎とし、下半期のそれを推計し、それにビール一本当りの売上に伴う総収入を算出して総売上高を算出し、諸経費を引いて課税所得金額を算定したものであつて、被告が原告の所得を推計したのは、正当であり、且つその推計方法は合理的なものであつて詳細は次のとおりである。

一、推計した理由について

被告の調査に際して、原告が呈示した関係書類は遊興飲食税課税台帳、売掛帳、酒類仕入通帳(田中酒店分)および出勤簿、経費にかかる一部領収証等だけであり、売上、仕入、経費等を記載した帳簿、伝票がないので、原告の呈示した右関係書類のみによつて収支計算をすることは経理技術上明らかに不可能であり、かつ信頼性について保障のある申立もなかつたのであるから、被告が推計によつて所得を算出したことは旧所得税法第四五条第三項の規定がある以上当然のことである。本件において推計課税の許されることは、原告自からその主張する所得額を推計計算している。

二、推計の合理性について

(一) ビールの仕入本数のうち下半期分(三八年七月乃至一二月分)を推計したことについて

原告の仕入先である訴外田中酒店について昭和三八年中のビールの仕入本数を調査したところ年間七、五三二本であり、そのうち上半期分(一月乃至六月)は四、一九六本であり、下半期分(七月乃至一二月)は三、三三六本であつた。

この下半期分三、三三六本については、田中酒店から仕入れた本数としては信頼できるが、それが原告の仕入れた本数の全部とは到底考えられない。

即ちバー等の業態においては、下半期には盛夏、クリスマス、年末等がある関係上、特段の事情のない限り上半期に比べ売上が増加し、したがつて仕入も増加するのが普通の業態であるところ、原告の遊興飲食税課税台帳によると、昭和三八年の上半期(一月乃至六月)のビールの売上本数は一、〇一三本であり、下半期(七月乃至一二月)の売上本数は一、五二四本となつている。

右の記帳事実は前記田中酒店調べの結果に照らすと仕入本数に比べ売上本数が極端に少く、ビールの売上脱漏割合が極端に著しいことはとも角として、下半期の売上の増加を示し、これに伴う仕入の増加を推測させる。

しかも、原告の田中酒店からの昭和三七年分(前年分)の酒類の仕入状況についてみるに、年間九七六、八四五円に対し上半期は三七八、一六〇円であり、上半期に対する下半期の割合を百分比で示すと上半期一〇〇%に対し下半期は一五八%と著しく増加している。

そこで被告は、原告の昭和三八年分の下半期のビールの仕入本数を推計することとした。その方法として、昭和三七年分の田中酒店からの酒類仕入額、同年分の飲食税課税台帳の売上額および昭和三八年分の飲食税課税台帳の売上額について、それぞれ上半期の売上額に対する年間売上額の百分比を算出し、その平均値を計算したところ二三三%となつたので、原告の田中酒店からの昭和三八年分上半期の仕入本数四、一九六本を基本として(この本数は、原告がその期に仕入れた本数の少くとも最低限であることに間違いはないので基本としたものである。)これに二三三%を乗じて、年間の仕入本数を九、七七六本と推計したものである。

右年間換算率を算出するための資料として前年分の仕入額を採用したのは、係争年分に最も接着した年分のものが最も係争年分の実額に近似する蓋然性があるという日常の経験則によつたためであり、又前年分の飲食税課税台帳売上額および係争年分の同売上額によつたのも同様の理由からであるとともに、売上と仕入は通常正比例するとの、これも日常の経験則によつたものである。(昭和三七年分の飲食税課税台帳の売上については上半期に比べ下半期が減少しているが、これは同年の田中酒店からの仕入額が上半期に比べ下半期が遙かに多いという事実からみると下半期分の売上を著るしく脱漏していると考えざるを得ない。この脱漏していると思料される昭和三七年分の売上額についても、年換算率算出のための資料として採用しているが、これはかえつて原告に有利となつているのであるから原告に対しては何等不当のものではない)以上のとおりであるから年換算率二三三%を算出した過程には原告に有利でこそあれ、何等の不合理はないのである。

さらに昭和三八年度における原告方バーの上半期と下半期におけるガス、電灯電力水道電話料金等の支出割合を計算すると、次のようになる。

(一) ガス料金

三八年一月~六月分の計 五、五六九円

〃 七月~一二月分の計 五、六八一円

右上半期を一〇〇%とすると下半期の割合は一〇二%となる。

(二) 電灯、電力料金

三八年一月~六月分の計 一六、六八八円

〃 七月~一二月分の計 三四、二五三円

右上半期を一〇〇%とすると下半期の割合は二〇五%となる。

(三) 水道料金

三八年一月~六月分の計 一、五〇二円

〃 七月~一二月分の計 三、三〇〇円

右上半期を一〇〇%とすると下半期の割合は二一九%となる。

(四) 電話料金

三八年一月~六月分の計 二八、一一五円

七月~一二月分の計 三六、〇二九円

右上半期を一〇〇%とすると下半期の割合は一二八%となる。

(五) 右各料金の上半期に対する下半期の割合を平均すると、上半期の一〇〇%に対し下半期は一六三・五%となる。

右各費用は原則として売上の増加に応じて増加する性質のものであるから、上半期の一〇〇%に対し下半期が一六三・五%と増加していることは、原告の売上が下半期において増加したことを如実に示すものである。

(二) ビール一本の売上に附随する総収入金を五四五円として総売上高を推計したことについて。

ビール一本の売上に附随する総収入金として五四五円を算出した方法は飲食税課税台帳の売上総額(ビール、その他酒類、肴等一切を含む)をビールの売上本数で除算したものである。

被告の調査において原告より呈示のあつた関係資料はさきに述べたとおり(一項参照)であるが、これによる雑酒肴等の仕入、売上数値は、ビールのその数値と同様に直ちに信用することができないものであり、かつ、これらの現金による仕入、売上(十分推則される)の実態を把握することは殆んど不可能であつた。かつ、これらの総体の仕入金額に対する割合は極めて低く(ビール八六%、雑酒七%、清酒四%、タンサン清涼飲料三%)、結局推計の基準とはなし得なかつたのである。

したがつて、総売上高を算出する方法として被告がビール一本あたりの総収入金として五四五円を採用したのは真に止むを得なかつたのであり、可能な限りの合理的推計方法を選択したのであるから何等違法はないというべきである。

(三) 同業者の所得率として五九・八%を算定したことについて右五九、八%は、左の四軒の同業者の所得率の平均値を採用したものであるが、他に所在地、営業規模等を示せば次表のとおりである。

〈省略〉

これを原告について示せば次のとおりとなる。

〈省略〉

右同業者を選定する際の基準としては、原告の営業所との地理的近接性および営業規模の類似性に極力留意したことは勿論であるが、さらに重要な要素としては、その同業者の収入金額、経費額が信頼すべき確定金額でなければならないということであるが、バー等の業態においては正確に収支計算ができる納税者は比較的稀で、したがつて、この点から選択の対象は大巾に縮少される結果となり、特に最後の点を重要なものとみて、地理的近接性、規模の類似性を可能な限り満たすものとしては、さきの四軒をおいて他になかつたものである。

右の四軒のうち屋号「蝶」は営業規模においては比較的大きいが、バー等の業態においては規模の大きさが営業利益に結びつく度合は、他の業態における程著るしくはなく、むしろ規模の小さいものがかえつて大きな荒差益(差益金額)をあげているという特異な現象がこの業態にあり得るということは日常経験するところである。又、成程「蝶」においては所得率は六五・五%となつており他の三軒に比べて比較的大きいが、これは規模の大きさに原因するというよりは地理的条件によるものである。即ち八幡区における商業の中心は既に早くから中央町から通称黒崎地区(藤田町を含む)に移動しており、黒崎地区は八幡区における経済的中心地としてとみに活況を呈しており、その反映が「蝶」の六五・五%の所得率となつて結果したものといえる。したがつて、「蝶」と同じく黒崎地区内に営業をもつ原告の所得率を算出するにあたつて類似同業者の一つとして選択しても決して不当ではない。

(証拠)

原告は甲第一号証の一、二、第二号証、第三号証の一乃至一二、第四号証の一乃至四、第五号証の一乃至四、第六号証の一乃至五、第七号証の一乃至三、第八号証の一乃至一三、第九号証の一乃至三、第一〇号証の一乃至一二、第一一号証の一乃至二四、第一二号証の一、二、第一三号証の一乃至一二、第一四号証の一乃至一二、第一五号証を提出し、証人高田芳信の証言および原告本人尋問の結果を各援用し、乙号各証の成立を認めた。

被告は乙第一号証の一乃至五、二~七号証を提出し、証人高巣他来男の証言を援用し、甲第一号証の一、二、同第三号証の一乃至一二、同第一一号証の一乃至二四、同一三号証の一乃至一二、同第一四号証の一乃至一二の成立を認め、その余の甲号各証の成立は知らないと述べた。

理由

一、請求原因第一、二項は当事者に争いがなく、原告において確定申告書の提出によりなした原告経営のバー「るたん」の昭和三八年度事業所得税の申告はその課税所得及び税額が著しく過少であることは、原告の主張自体により明らかである。

被告が原告の本件所得を調査するについて、原告が呈示した関係資料は、遊興飲食税課税台帳、売掛帳、酒類仕入帳および出勤簿、経費にかかる一部領収書のみであつて、売上、仕入、経費等を記載した帳簿、伝票等の提出をしなかつたことは原告において明らかに争わないところであり、原告より被告に対し、他に信頼性の保障ある申立をしたと認めるべき証拠はない。

二、すべてその成立に争いのない甲第一号証の一、二、乙第一号号証の一乃至五および同第二乃至七号証、証人高巣他来男の証言および弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

(一)  原告経営のバー「るたん」はホステスをして接客せしめるいわゆるサービス・バーであり被告が原告より呈示を受けて調査資料として検討した前示酒類仕入帳は、原告方店舗の家主で、従来からの酒類仕入先であつた訴外田中屋酒店の作成にかかる通帳(甲第一号証の一・二)であるが、これに記載された昭和三八年中の原告の同店から仕入れたビールの数量の各月の内訳数は原告主張のとおりであるところ、信を措くに足るその内容によれば、被告が昭和三八年七月二日に開始した原告の昭和三七年度における所得の調査をなしたその時期を境にして、同年上半期(一月以降六月まで)に比し下半期(七月以降一二月まで)には急激に原告の同店からのビールの仕入本数が減少していること。

(二)  同様に被告が田中屋酒店により調査した結果によれば、前年の昭和三七年度における原告の同店からのビールの仕入高は九七六、八四五円であつて、その上半期と下半期の割合は前者が三七八、一六〇円、後者が五九八、六八五円であつて、右下半期の仕入高の上半期のそれに対する比率は一五八%(年換算率は二五八%)と著しく増加していること。

(三)  被告が原告より呈示された前記遊興飲食税課税台帳に記載された昭和三七年度の売上高は年間一、一〇七、七三六円であつて、上半期の売上高は六一七、七〇〇円であり、下半期の上半期に対する割合は前記の仕入高とは逆に二一%の減少(年換算率一七九%)となつているが、昭和三八年度における右課税台帳上の売上高は年間一、二五二、九九七円であつて、上半期のそれは四七六、四八〇円であり、下半期の上半期に対する割合は一六三%(年換算率二六三%)となり増加していること。

(四)  そこで被告は、原告が昭和三九年四月以降田中屋酒店からの仕入とは別個に直方市内の宮原酒店からビール等の仕入れをしていることが、原告の申立によらない独自の調査の結果確認されたことも勘案し、昭和三八年度下半期の田中屋酒店からの仕入の減少は前記所得調査を契機として原告が同店からの仕入数量を手控え、併せて他の酒屋からも仕入れていたものと判断し、その実際の数量を確認する資料がないため、昭和三八年度におけるビールの全仕入数量を算出するにつき、同年上半期の田中屋酒店からの仕入本数中四、一九六本を原告が右上半期に仕入れた売上本数の最低限であるとし、これに前記前年度の仕入高および両年度の遊興飲食税課税台帳上の売上高の年換率の平均値として算出される二三三%を乗じて得た数値九、七七六本をもつて年間売上総数量と推計算出したものであること。

(五)  次いで、被告は原告の営業における総売上高を算出するため、まず遊興飲食税課税台帳記載の本件(昭和三八年度)原告方バーの遊興飲食税を含まない年間売上高が前示のとおり一、二五二、九九七円であり、同記載のビールの売上本数は二、五二七本であつて、右年間売上高を売上本数で割ると四九五円となり、これに一〇%の遊興飲食税(所得計算上後に必要経費として控除することとなる)を加えると五四五円となるのでこれをもつて経費を含むビール一本の売上に伴う総収入とし、これを前記算出に係る売上総数量に乗じて得た数額五、三二七、九二〇円をもつて総売上高としたこと。

(六)  さらに被告は、右算出に係る総売上高から必要経費のうちの標準経費を控除するため、次表の様に、地理的近接性および従業員数、設備、収容人員その他営業規模等において原告方バーと比較的類似していると認められた収支決算の明らかな他の四軒のバーの収入と支出の状況、課税所得額を原告方バーのそれと対照し、右四軒のバーの所得率の平均値(五九・八%)を算出し、これを原告方バーの所得率と看做し、これを前示総売上高に乗じて得た数額をもつて、標準経費控除後の所得額としたこと。

〈省略〉

(七)  原告方バーの近隣における同業者五件の上半期における売上と下半期における売上比率を平均すればその数値は別表に示す如く上半期を一〇〇%とすると一四〇%(年換算率二四〇%)となること。

三、さらに本件(昭和三八年度)における原告方バーの上半期と下半期におけるガス、電灯、電力、水道、電話料金及びその支出割合が以下のとおりであることは当事者間に争いがない。

(Ⅰ) ガス料金

上半期 五、五六九円 下半期 五、六八一円

右上半期を一〇〇%とすると下半期の割合は一〇二%となる。

(Ⅱ) 電灯、電力料金

上半期 一六、六八八円 下半期 三四、二五三円

右上半期の割合を一〇〇%とすると下半期の割合は二〇五%となる。

(Ⅲ) 水道料金

上半期 一、五〇二円 下半期 三、三〇〇円

右上半期の割合を一〇〇%とすると下半期の割合は二一九%となる。

(Ⅳ) 電話料金

上半期 二八、一一五円 下半期 三六、〇九二円

右上半期の割合を一〇〇%とすると下半期の割合は一二八%となる。

(Ⅴ) 以上各料金の上半期に対する下半期の割合を平均すると、上半期の一〇〇%に対し下半期は一六三・五%となる。

四、以上の事実によれば、原告より提出された申告書記載の課税標準等が被告の調査したところと異なるものとして国税通則法三四条によりなされたものと認められる本件更生処分については、旧所得税法(昭和二二年法律第二二号)四五条三項により被告が原告の所得の推計をなしたのは正当であること明らかであり、被告のなした推計の方法については、通常ビールをもつて提供飲食物の主体とし、その仕入本数に見合う売上本数があり、かつ、特段の事情のない限り、下半期においては上半期に比し売上の増加するのが常態と認められるサービスバー営業の業態をも考慮すれば、本件係争年度下半期において前示田中屋酒店からのビール仕入本数をもつて原告の仕入本数の全部と解することはとうていなしえず、(従つてこれを前提とする原告主張の所得計算は採用できない)、右下半期において特に仕入従つて売上の本数を減少せしめた特段の事情を認めるに足る証拠のない(原告はその本人尋問において、四月以降九月までの間有能なホステスが退職し、従業員数が減少し、また一二月中旬風俗営業の営業時間制限違反について警察の取締を受け、以後自粛したのが売上減少の理由であると陳述するが、右のような事情があつたとしても未だ前記特段の事情ありとは認め難い)本件においては、経験則上、当該年度分の実際に最も類似する蓋然性があると見られる前年度分のビール仕入数量及び通常、総体的には寡少であつても売上比率においては実際を反映するものと見られる遊興飲食税課税台帳上の前年及び当年の両年度分(前者は後者と異り上半期分に比し下半期分が減少しているけれども、これを資料に加えることにより、かえつて原告には有利となる。)の各比率を資料として比率換算により年間ビール売上本数を算出し、さらに、仕入、売上の実態の把握が著しく困難で、その金額の総体の仕入、売上金額に占める割合においてきわめて低率の雑酒、肴等ビール以外の商品を捨象してビール一本当りの売上総収入を前記のように算出し、総売上高を推計した方法は合理的な方法というべきであり、(その結果についても、通常売上比率を反映する電気、ガス、水道等の前示料金額における係争年度上下両半期の比率に鑑み相当であると認められることも、前記年換算率適用の合理性の裏付となるものである。)次に、標準経費額控除のため被告の採用した前示所得率の算出も、合理的ということができ、原告主張のような憲法違反はなんら認められないのみならず、その結果標準経費とされた金額は二、一四一、八二四円となり、標準経費に相当するものとして原告の主張する総仕入額と一般経費額との合計金額一、五八七、五六〇円をはるかに上回り、後者の金額に、原被告各主張の仕入ビール本数の差に当る数量について、その仕入金額を、当該期間内における最も高額の単価を用い算出した数額(二〇万円余)を加算しても、被告の推計による標準経費額にははるかに及ばないのであるから、この点においても被告が不当に標準経費額を低額に認定したとの原告主張は認め難い。

五、もとより、課税に当つては、直接的な資料に基き、所得の実額を捕捉する、いわゆる実額課税の方法によるのを原則とするべきであるが、そのためには税務当局納税義務者の十分な協力を前提とするものであり、本件におけるように納税義務者たる原告が内容につき虚偽の申告をし、又日々の取引に関する正確な帳簿や原告の業種において容易に作成でき、また通常必らず作成しているものと推察できる売上伝票をも提出しない様な非協力的な態度に出る場合には、誠実な納税者との間の租税負担の公平を期する意味からも、被告としては可能な限りの方法を用いて課税所得を推計算出すべきであるところ、前記のとおり本件における被告の推計の内容は合理的であり、本件更正処分には原告主張のような違法は存しないものというべきである。

そこで、本件更正処分の取消を求める本訴請求は理由がないからこれを失当として棄却することとし、訴訟費用について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安東勝 裁判官 渡辺惺 裁判官 蜂谷尚久)

〈省略〉

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